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今井正監督『青い山脈』(1949年) [映画]

青い山脈 (映画) - Wikipedia

原作は、石坂洋次郎。配役は原節子、龍崎一郎、池部良、杉葉子。この作品は「新子の巻」という前編に当たる。ロケ地は「なまこ壁」で有名な静岡県の伊豆下田。

新米の英語教師 島崎雪子(原節子)が田舎町の女学校に赴任してくる。島崎は教え子が引き起こした事件をきっかけに、生徒たちを封建的な伝統や慣習から解放し、学校を民主化しようと孤軍奮闘する。ところが、それが町の人々を巻き込んで大騒ぎに発展してしまう。この作品を見ると、我々が暮らす戦後の日本が、いまだに戦前の封建社会の残滓の中にあることを思い知らされる作品だ。

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寺沢新子(杉葉子)は、お小遣いを稼ぐために、自宅の卵を失敬し、街場のお店に持ち込んで買い取ってもらおうとする。店主のかわりに店番をしていた学生の金谷六助(池部良)と意気投合。新子は六助のために食事を作ってやる。

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新子は母親が二人もおり、その不幸の原因を知るために、町で評判の占い師に姓名判断をしてもらいに六助とともに行く。その現場を女学校の下級生が目撃し、新子の同級生に密告。下品な羨望と好奇心に駆られた同級生たちがニセのラブレターを新子に送るといういたずらをする。

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この事件をきっかけに、原節子演ずる島崎先生は、クラスの民主化運動を開始する。ところが、島崎のナイフのような鋭い姿勢がクラスメートたちのプライドを傷つけてしまい、問題がこじれて、学校全体の問題にまで発展してしまう。

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新子にニセのラブレターを送った張本人は、この女学生だ。

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いつもの上品な原節子ではなく、吹っ切れた原節子が見られる。島崎先生は、自分は間違っていないし、新子も間違っていないのだから、もしこの町が自分たちを許さないのであれば、二人で東京へ行って暮らしましょうなどと言って、島崎先生は新子を励ます。

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島崎先生は、「私は東京で英語を教えて暮らせるけれど、あなたは背が高くて美人なだけが取り柄だから、ダンサーにでもなるしかないわね。踊れるの?」などと軽口を叩き、新子にダンスを教える。ちなみに、新子を演じた杉葉子は、現在、御年89歳でロサンゼルス住まいだが、原節子は亡くなるまで鎌倉で暮らした。この対比が面白い。

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教頭と校長に呼び出され、理想と現実は違うのだから、この町でやっていくためには、嘘でもいいから、生徒たちに謝罪するようにと勧められる。いつもどこかで聞く嫌なセリフである。教育者の風上にも置けない。

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島崎の厳しい態度に憤慨した女学生は、彼女に謝罪を要求する文を黒板に書く。しかし、間が抜けている。島崎先生は3個所漢字の間違いがあることを冷静に指摘する。(さて、間違いがわかりますか?)

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そこへ、島崎先生に敵意を抱く岡本先生(藤原釜足)がクラスに割って入ってきて、教師に楯突くような女は、嫁の貰い手がなくなるから、島崎先生に謝れと、興奮した学生たちをなだめようとする。若い頃の藤原釜足は、たけし軍団の「つまみ枝豆」そっくりだ。

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ところが、その封建的で不まじめな態度は、よりいっそう女学生をたちを焚き付けることになる。こういう底意地の悪い教師は、夏目漱石の『坊っちゃん』の「赤シャツ」を髣髴させる。

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新子はイライラしながら町を歩いていると、偶然、六助と遭遇。事件の顛末を六助に話し、その後、快活な男子学生たちとテニスを楽しみ、晴れやかな気分になる。

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さらにその話が、六助の先輩にあたる、校医の沼田(龍崎一郎)に伝わる。沼田は、民主的な考えを持つ島崎と接し、自分も封建的な世間に妥協していたことを真摯に反省している。

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島崎先生は音楽の先生からも応援される。意外にも、島崎の味方は大勢いるらしい。

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六助と彼の友人のゴンちゃんに家まで送られてきた新子は、彼女を待ち伏せしていた意地悪な女学生たちと鉢合わせする。新子は衝動的に首領の女学生を張り倒してしまう。

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翌日、職員会議が開かれる。校長たちは、事件が町の人々に知られることを防ぐために、なんとしてでももみ消すことが重要だと考え、島崎先生に生徒たちの前で謝ってもらおうとする。しかし、校医の沼田という心強い援軍を得た島崎先生は、勇ましくその提案を拒否する。

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原節子の決然とした表情はなかなか見られるものではない。

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島崎先生は、校医の沼田の前では、なぜかしおらしくなってしまうのが可愛らしい。

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隠れた援軍が登場。彼女も、島崎先生の味方であることを表明しにわざわざやってくる。年寄りが、若さに期待するのはいつの時代でもあるのだなあ。

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町の有力者である学校の理事 井口甚蔵(三島雅夫)を取り囲んで、教頭たちが料亭で芸者をあげて作戦を練っているところ。そこには、島崎先生に恨みを持つ女学生の親ばかりか、校医の沼田と対立する岡本先生(藤原釜足)もいる。デーモン小暮閣下の母、木暮実千代は芸者の梅太郎。梅太郎は自分が面倒を見ている後輩の芸者が、井口に遊ばれ、妊娠させられた挙句、捨てられたことを恨んでいる。一方、梅太郎は、校医の沼田に好意を持っており、沼田が好意を寄せる島崎に対しては複雑な感情を抱いている。

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こちらは、沼田邸での作戦会議。

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そこにスパイの女学生が、翌日配達される新聞を持ってやってくる。そこに書いてあるのは、完全なフェイク・ニュース。生徒たちの民主化運動を、島崎先生が弾圧したと言うのだ。この記事を書かせたのは、町の有力者の井口ある。三島雅夫はいつもこんな感じの悪役ばかりだな。

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沼田は、「民主主義なんて言っても、裏を返せば、この程度のものなのだろう」とため息をつく。これは現代の日本にも通じる。

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メガネを掛けたスパイの女の子が可愛い。

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沼田たちの作戦会議のさなかに、花澤徳衛扮する百姓がやってくる。すぐに主人を診てもらいたいというのだ。

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このシーンは石原裕次郎の映画っぽい。

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池部良の野生の感覚が呼び覚まされるこのシーンは、『昭和残侠伝』(1965年)の風間重吉を思い出させる。

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沼田は往診に行く途中、町の有力者である井口に頼まれたヤクザたちに待ち伏せされ、トンネルの暗がりの中で滅多打ちされてしまう。

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最後に、沼田医院から笑顔で帰る島崎先生、新子、六助、そして何か不吉なことを察したかのような飼い犬の吠え声の対比のシーンで、突然終わってしまう。

私は、この作品が2つに分かれていることを知らないまま見たので、あと10分のところで、どうやって終わらせるのかと思って、ハラハラしてしまった。録画が途中で切れたのかと思ったが、そうではなかった。後編は、BSで放送されていないと思うので(されたのかもしれないが、録画していない!)、いつ見られるのかまったくわからない。続きが非常に気になる。

しかし、前編後編を合わせて作った吉永小百合・浜田光夫 主演の『青い山脈』(1963年)のほうはすでに見ているので、結末はわかっているけれどね。1963年版では、原節子演ずる島崎先生は、芦川いづみ。めちゃくちゃ可愛い。ガンちゃんの役回りは、高橋英樹。保護者会で、哲学的なことを言って煙に巻く作戦を実行する。

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