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ポジティヴ・シンキングと因果関係 [雑感・日記・趣味・カルチャー]

なぜ、陰謀論がはびこるのか? 本気で論破しまくる本を出した歴史学者が語る怖さ

世の中には、物事を単純な因果論(因果関係)に落とし込んで、わかったつもりになるバカがあまりに多いので、アカデミックで科学的な教育を受けている学者が、そんなバカどもを叩きのめす必要があることを私も痛感しております。

先日、ある授業で、ポジティブシンキングは人の生活を豊かにするという研究結果があると書いてあったので、批判的に説明してきました。その文章の中では、ポジティヴに考えれば、ハッピーになれると述べてありました。ハッピーであれば、健康で、友達も多く、仕事もうまくこなし、トラブルがあっても必ず解決し、しかもクリエイティブになるというのです。

その仮説が当てはまることも、場合によっては、あるのかもしれません。しかし、アンハッピーな環境に生まれ育って、現在もなお最下層の生活を送っている人たちが、ポジティヴに考えれば、何事も必ずうまくいくというのは、悪質な嘘です。

甲子園を目指している球児たちが、ポジティヴシンキングに洗脳され、甲子園に出ることを夢見ているうちに、全員甲子園に出られるわけはありません。統計学的にもありえない話です。しばしば、成功した人たちが、夢を信じていれば必ず実現するということを言います。その人たちは成功したからこそ、そう思えるだけで、世の中の大多数の人たちは成功しなかった人たちなのです。たとえば、100人に1人が成功したとして、残りの99人はうまくいかなかった人たちだとすれば、母集団の99.9%は成功しなかった人たちなのですから、夢はいくら信じても100人に1人しか実現しないというのが事実になります。母集団とは違う人を選んで、その人の言葉のみが正しいとするのは、「選択バイアス」というものです。

さらに悪質なのは、成功しなかった人に対しては、夢の実現を本気で信じていなかったからだという言い訳を言う人がいます。それは「信じる者は救われる」式の詐欺です。信じたことが正しかったかどうか死んでもわからないことは、反証不可能です。反証不可能なものは、アカデミックかつ科学的に物事を考える側の人間にとっては、単純に信じることはできないのです。

ポジティヴシンキングの罠にハマっている人は「因果関係」における、原因と結果を取り違えていることに気づいていません。ポジティヴに考えることを原因とし、成功することを結果とするのは、物事を単純な因果関係に落とし込んでわかったつもりになる阿呆の所業です。その人はラッキーな環境に生まれ育ったから、ポジティブにものごとを捉えられる人に育ち、そのような環境の恩恵を受けて、人脈が作れて、成功しているのかもしれません。

物事が発生する際には、さまざまな要因が絡み合っているのは当然なことなのに、どうしてそういう部分を排除してしまうのでしょうか。株式市場でも、日経平均株価の上昇下降に単純な理由が付けられますが、デタラメもいいところです。その理由を聞くたびに、いつも君たちは馬鹿なんじゃないのと思ってしまいます。

さらに、単純な因果関係に置き換えてしまうことによる弊害がさまざまな面に発生しているように思われます。ダイエットや民間療法などでも、命にかかわる問題が発生することもあります。食事でガンが治るとか本気で信じこませてしまうことは犯罪的な行為です。それはぜひとも止めてほしいことです。

人間は物事を単純化するのが好きな愚かしい生き物です。そういう側面を正するのが教育の役目なのですが、教育機関に勤めている側の人間が正真正銘の阿呆ばかりなので、救いようがありません。歴史家の呉座勇一さんのようなまともな方たちの努力に期待したいと思います。