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青柳信雄監督『愛の世界 山猫とみの話』(1943年、東宝) [映画]



高峰秀子の可愛いらしい笑顔が見られるのはいつになるのかと思いながら3分の1を見たところです。

この作品は軍国主義時代のものです。不良少女を集めて職業訓練をしながら、「お国のために」働かせている学校に、16歳の小田切とみ(高峰秀子)が連れて来られます。彼女は先輩たちと仲良くできず、取っ組み合いの喧嘩に発展します。

先生はいったん二人を引き離し、不良少女たちに教訓を垂れます。その教えが心に沁みます。いま日本は戦争をしているんだ。戦っていないのはお前たちだけだ。申し訳ないと思わんのか」。

現代は、「社会のため」「社会貢献」という言葉が就職活動をする若者たちの口に上ることが多いですが、常々私がその言葉に違和感を覚えていた理由がわかりました。軍国主義、国粋主義と、会社に対する忠誠心や社会貢献という意識は相似形だったのです。

私たちは戦後80年近く経っているのに、まだ自分のために生きることが許されていないのです。怖くなりました。


追記:傑作です。いろんなことが学べると思います。最後は悲劇で終わるのかとヒヤヒヤしましたが、さすがに戦前の映画ではそれはなかったようです。不良少女にも人間らしい心を秘めていて、周りのものたちが暖かく接すれば必ず改心してお国のために尽くす人間に成長するという物語です。表向きはですがね。

原作には佐藤春夫が関わっていて、特殊効果撮影は円谷英二、助監督に市川崑なのですから、そんな単純には解釈できませんがね。

こういう映画は戦前・戦中を知るための貴重な資料です。こういう映画のファンがきわめて少ないのが残念です。




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