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The Commitments Try A Little Tenderness HQ [映画]



昨年亡くなったアラン・パーカー監督の『ザ・コミットメンツ』(The Commitments)(1991年)は私の大好きな映画の1つです。3本の指に入ります。個人的には、大傑作の一つだと思っています。これはブッカー賞受賞者ロディ・ドイルの同名の小説を映画化したものです。舞台はダブリン。失業者のジミーが自分の野望を叶えるために、ソウルミュージックのバンドを結成し、自身はマネージャーとして働き、彼らを人気バンドに押し上げます。

ジミーがソウルを選んだのは、ダブリンに魂(ソウル)を吹き込むため、そして、アイルランド人はヨーロッパの中の黒人だからであり(日本人にはわからない感覚ですが、彼らはヨーロッパやアメリカからは差別的な扱いを受けていたのです)、ダブリン北部のの貧民街に住む自分たちは、黒人の中の黒人だからだというわけです。それだけで、もう大学生の私は全身がしびれました。雷に打たれたようなものです。

バンドの最年長のメンバー(トランペット奏者)は、アメリカのソウルミュージックの大御所ウィルソン・ピケットと知り合いらしく、彼らのライブを見に来るという約束を取り付けたとのことで、メンバーたちは大盛り上がり。しかし、メンバー同士のいざこざが絶えず、しかも、本番が終了してもピケットが現れる気配が全くありません。ついにバンドは崩壊し、ジミーも夢破れてパブを後にします。深夜の石畳の道で、リムジンがジミーの横に静かに止まります。黒人の運転手が、窓を開けて、ジミーに道を聞きます。「ギャラハーズ・パブはあっちですか?」ジミーは「もう閉店だよ」と答えると、運転手は振り返り、後部座席に向かって「ピケットさん、閉まっているそうです」と答え、Uターンしていくのです。

この映画は私の大好きなソウルミュージック、とりわけウィルソン・ピケットに対するオーマージュになっているだけではなく、アイルランドの巨人サミュエル・ベケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』のパロディにもなっているのです。ゴドーはGodotと表記しますが、一般的にはGod(神)と解釈されています。ベケットの戯曲の中では、Godotは最後の最後まで現れることはありませんが、この映画では彼らが待ち望んでいた神が、すべてが終わった後に現れるのです。この皮肉(ブラックユーモア?)こそまさにアイルランドらしさそのものなのです。

私はこの映画を30年近くの間、何度も何度も見返しています。細かい場面までみな覚えているくらいです。セリフはダブリン方言なので、いまだに完全には理解することはできませんが、ストーリーがわかっているので、何を話しているかだいたい想像はつきます。当たり前ですけど。

また、1980年代の音楽シーンを知っている人たちは、腹を抱えて笑える場面がたくさんあります。抱腹絶倒のコメディ映画です。

ちなみに私はこのサウンドトラックのCDも持っていて、たまに聴いています。いまはYouTubeに断片的に映画の中の演奏シーンがアップロードされているので、雰囲気だけは味わえると思います。

それにしても、ダブリンの北部訛りは汚いですね。"fuckin' eeijit"はeeijitはidiotのことで、白痴、うすのろ野郎という意味です。BolixはBollocksの訛りで、金玉野郎という感じですね。もうめちゃくちゃです。

ジミーの父親役のコルム・ミーニイの喜劇的な演技も最高です。絶対にファンになりますよ。ジミーのファミリーネームはRabbitsなのですが、もちろん子沢山のウサギをもじっているわけです。アイルランドはカトリックの国で、中絶が最近まで禁止されていたことを知っていれば、名前を聞いただけでも笑えます。まさに「貧乏子沢山」のアイルランドがわかる映画です。いまのアイルランドは違うようですけど、私の若い頃はまさにこのイメージでした。

映画の前半に、ジミーがイギリスから映画のビデオテープを輸入してバスの中で販売するというシーンがあります。客に「『ミシシッピー・バーニング』もある?」と客に聞かれ、ズタ袋から取り出すのですが、もちろん、それはアラン・パーカー監督の作品です。『ミシシッピー・バーニング』(1988年)はアメリカの黒人差別やKKK(クー・クラックス・クラン)の暴力を描いた作品なので、ぜったいに観ることをおすすめします。あっちはコメディではなく社会派の作品ですが、本当のアメリカを知るためには必見の映画です。映画好きなら、絶対に観ないといけません。観たことがないという人は、もぐりですよ。

(ちなみに、私は授業中とか同僚との雑談ではいつもこのブログに書いているような話ばかりしています。自分で言うのも何ですが、相当な変わり者ですよね。)



映画の中で、これ↑とこれ↓とマービン・ゲイの曲を混同するシーンも笑えます。確かに似ています。



プロコル・ハルムの「青い影」の歌詞にある"We skipped the light fandango"が映画の中で数回言及されますが、このfandangoはカスタネットを持つ男女2人が踊るスペインや中南米のダンスを文字通り指すだけではなく、映画の中では愚行の意味でも使われています。こういう言葉遊びもアイルランド的です。

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