「無視されてる感じがするんだよね」精神科医 / 益田裕介の保健室【公認 切り抜きch】

こちら側がシーシュポスのように石をコツコツ積み上げて頑張っているのに、向こう側の人はそういう努力を見もせずに、積み上げた石の山をしれっと蹴飛ばして、すべてをなかったことにしちゃうようなことをします。周囲に無視されているような感覚に怒りを覚えるというのは私も同じでした。

私も４０代の終わりまでは、自分が置かれている状況に怒りを感じていました。闘うべき敵の顔はまったく見えないし、私が何をほざいても社会全体を変革することは不可能だし、イライラを抱えて生きてきました。

しかし、そんな私に転機が訪れます。コロナ禍です。自分がいる現場から離脱してもいいんだ、真剣に努力する必要がないんだということがわかってしまったのです。いくら手を抜いても、うまく手を抜く限り、誰からも文句を言われるわけでもないので、能率よくやることこそが正義だと気づいたのです。それに誰も私にそんなに期待しているわけでもないのだから、頑張る必要は全くないのだと。

そう悟ったおかげで、気分の落ち込みがなくなりました。学生の面倒なんて見なくても彼らは自分で勝手にやって行くし、私一人が社会や組織の都合なんか無視しても別になんの問題も起きないのです。それまでは空気を読まなければ生きていけないという、強迫観念に囚われていたのですが、「そんなのはもうどうでもいいわ。俺の責任じゃないでしょ」というところまで到達してしまったのです。向こうが俺の責任を取ってくれるわけではないんだし、俺もお前らの責任なんか取る必要もないわ。アホらしい。俺は俺で勝手にやっていくよ。残り少ない人生ですから、私はあなた方を楽しませるのではなく、私自身を楽しませるために生きさせてもらいます。」そんな感覚です。おかげで、ふわっとしたというか、すっきり、さっぱりしました。