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成瀬巳喜男監督『旅役者』(1940年、東宝) [映画]



旅役者 (1940年の映画)

『旅役者』というタイトルからもわかりますが、主役は旅芸人。彼の名前は俵六(藤原鶏太)です。しかし、俵六が演じるのは人間ではなく、馬の前足。つまり、馬の偽物です。しかも、彼が所属しているのは、中村「菊五郎」という偽者が座長のインチキな一座です。菊五郎といえば、尾上が本物であることは歌舞伎を少しでも知っている人には誰でもわかること。「音羽屋」の屋号のほうが馴染みがあるかもしれません。

そんな俵六ではありますが、馬の足の演技にはこだわりが強い男です。プライドを持って馬の前足を演じているのです。ところが、初回の公演の前に、彼が大事にしている被り物の馬の頭を壊されてしまいます。拗ねた俵六は舞台に上がることを断固として拒否し、結果、悲しいかな、本物の馬に仕事を奪われてしまうのです。

いずれ近い将来、人間はAIに仕事を奪われることになると近頃は盛んに脅かされます。この作品は、そんな我々の悲劇的な未来を先取りしているように思えます。悲しさと面白さと恐ろしさが器用に混じり合った作品として仕上がっています。ラストシーンは滑稽ですが、切なすぎて、素直に笑えるものではありません。

成瀬巳喜男の作品としては、私が観たことがあるのは、高峰秀子主演の『秀子の車掌さん』(1941年)、『おかあさん』(1952年)、『あにいもうと』(1953年)、『浮雲』(1955年)など。他にも観たことがあるかもしれません。けっこう忘れています。





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