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音楽や文学や美術の話ができる人はいないものでしょうかねえ [資格・学び]

どこかに音楽や文学や美術の話ができる人はいないものでしょうかねえ。職場には、そういう人がけっこういて、コロナ禍以前は楽しめたんですけど、いまは英語教師の同僚たちとは会えないので、そんな話ができません。英語教師というと、文学系ではないと、たいてい教育の話になってしまって、うんざりさせられることが多いのですが、文学系の人と話すといつまでも話し続けることができます。そういう交流があってこそ生きる活力が湧いてくるものですが、いまはさっぱりです。

ところで、2週間くらい前だったでしょうか、しょうもないウェブ記事を読みました。文学が教養だったことはないのだから、学校教育から小説を排除して何が悪いという主張でした。無教養も甚だしいと思います。

そもそもその記事を書いた方は「教養」とは何かということがまったくわかっていないようです。その方にとっては、教養は、小説家の名前と作品名が言える程度の雑学的な知識なのでしょう。クイズ王=教養のある人、なのかもしれません。浅はかですね。念のため、用語の定義を確認するために、『大辞林』を引用します。

(1)おしえそだてること。「父は其子を—するの勤労を免かれ/民約論{徳}」
(2)社会人として必要な広い文化的な知識。また、それによって養われた品位。「—を身につける」
(3)〔{英}culture;ドイツBildung〕単なる知識ではなく、人間がその素質を精神的・全人的に開化・発展させるために学び養われる学問や芸術など。

1番はいまは使わない定義で、2番は一般的な定義です。気になるのは3番でしょう。「全人的に開化」なんて今ひとつ何を言っているのかわかりませんが、そこが大事なところです。英語ではcultureであると書いてあるのも気になるところです。Cultureは「文化」と訳されていますが、フランス語でも英語でも「耕す」という意味の言葉なので、「文化」というのは畑を耕して、作物を収穫するための知識のことであり、代々子孫に受け継いでいく行為なのでしょう。

しかし、文化は教養の一側面であると思います。一般に、教養は英語ではLiberal Artsを指します。それは自由になるための技術、自由人として生きるために必要な技術、能力、知識のことです。

つまり、教養がある人というのは、自由人という意味です。常識や既存の価値観や他人の意見に縛られない自由な発想を持っている人、全体を俯瞰できて、自分の直情的な感情にも縛られない人という側面もあるでしょう。「自分軸」で生きている人ということです。そういう生き方をすることが「全人的に開化」の意味だと思います。

その意味での教養を身につけるための材料として、文学などが「全人的に開化」するために役に立ってきたことは間違いありません。自由人ではない奴隷は、商売の教則本としての自己啓発書やビジネス書に書いてあることを忠実に守ろうとします。だいたいそんなことはできないので、自分は無能なんだと絶望するだけです。彼らは他人の意見に左右されるような「他人軸」で生きている人たちです。そういう生き方や考え方を予防するためにこそ教養があるのです。

文学も、音楽も、芸術(美術)もみな、アタリマエのことを疑います。アタリマエのことをアタリマエのこととして受け入れて、それに従って生きている無教養な奴隷にとっては、文学など、どうでもいいのかもしれません。しかし、教養は自由に生きるための養分なのです。そういう肥料がないと、文字通り、すぐに枯れてしまいます。

文化の話ができない人というのは、単純にお金儲けをする人が偉いという価値観なのかもしれません。型にはまったつまらない人だと思います。私は無教養な人と話すのは時間の無駄だと思います。そんなことに時間とエネルギーを費やす価値は一切ないと思います。

私の同僚の教師たちは、当然なのかもしれませんが、教育の話が好きな人が多くいます。しかし、彼らにとっての教育というのは、いかに学生にたくさん単語を覚えさせるか、速読できるようにさせるか、TOEICのスコアを向上させるかだけです。スキマ時間を活用して、単語を覚えさせるとか、どうでもいいことばかりです。少しは文学や音楽の話でもしたらいいのに、と思いますが、私のように考える人はあまりいません。

先ほど、ホームセンターに行ってきたのですが、車の中でNHK-FMを聴いていました。バッハ特集をやっていたので、長く聴いていられるようにわざわざ遠回りしてしまいました。ラジオを付けた瞬間に聞き覚えのある曲が流れてきて、嬉しくなりました。私が好きな無伴奏チェロ組曲の第1番でした。「この曲はヨーヨー・マやミッシャ・マイスキーが有名なんだよなあ。でも、これは明らかにヨーヨー・マのものではない。誰のだろう」なんてと思っていたら、曲が終わるとアナウンサーがミッシャ・マイスキーの演奏であることを教えてくれました。こういうことがあると、気分が良くなりますね。

こういう話ができる人は、どこかにいないものでしょうか。

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