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小津安二郎監督『秋刀魚の味 』(1962年) [映画]



秋刀魚の味 - Wikipedia

この作品を見るのは、3度目です。

妻を亡くした50代の男(当時は55歳で定年だったから、52、3歳くらいの設定か?)が、娘を妻代わりに便利に使っていたのだけれども、年頃(23、4歳)になったので、お嫁にやり、寂しい思いをするというお話です。「人間は結局は一人で生きていかなければならない」というメッセージが一本通っている一方で、「人間はひとりでは生きていけない」という矛盾したメッセージも同時に発せられているのが興味深いところです。これは小津安二郎監督の遺作ですが、小津が最終的に行き着いた人生の境地が、私も50代になって、ようやくわかるようになった気がします。以前観たときは実感がわかなかったのですが、今は子供が巣立っていくことにリアリティーを感じます。

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父(笠智衆)に娘(岩下志麻)がお嫁に行かないかと告げられ、心の中に思う人がいる岩下志麻がためらいの表情を見せる場面です。

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息子と二人暮らしになってしまうことになり、生活が不自由になってしまうのは非常に辛いのだけれども、娘の幸せを利己的に奪ってしまってはいけないという父親の複雑な思いを表現する表情です。

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岩下志麻は、恐ろしいほどの美人ですね。

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佐田啓二は長男の役で、妻(岡田茉莉子)とアパートで新婚生活を送っていて、完全に尻に敷かれています。60年前ですが、おそらく当時としては、男がこんなエプロン姿で台所に立つというのは現代的だったに違いありません。それにしても佐田啓二のエプロン姿はひどいですね。

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働きに出ている妻(岡田茉莉子)は惣菜のハンバーグを買ってきたという場面です。このあと、父親(笠智衆)が娘(岩下志麻)の縁談の件で長男(佐田啓二)に相談しにやってくるので、佐田啓二の料理は見ることはできません。「ハム卵(たま)」だそうです。

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亡くなった妻にどこかしら面影を感じるというママ(岸田今日子)のいるバーに長男(佐田啓二)を連れていき、そこで、長男の会社の後輩と結びつける算段をします。ところが、その青年は、他に好きな人ができてしまったということで、その話はご破算になり、最終的には、父親の旧友から紹介されたお金持ちのボンボンのところに嫁ぐことが決まるのです。なんとも時代を感じさせる設定です。恋愛結婚とお見合い結婚が対立していないのです。

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この紐をぐるぐる指に巻くシーンは、小津安二郎監督に何十回とやり直させられたシーンだそうです。実際10数秒しかないのですが、若い女性の揺れる思いを的確に表現している印象的なシーンです。あっちにするか、こっちにするか。

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文金高島田姿も麗しいですね。

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娘を嫁にやった晩の父親の嬉しさと悲哀を感じさせる最も印象的なラストシーンです。

この『秋刀魚の味 』もそうですが、小津作品は構築物としてカチッとしているのがよくわかります。シークエンスの切り替わりのところで、遠近法で切り取られた建物のシーンが入ります。それが学校であったり、工場であったり、会社であったりするのですが、同じ構図なのです。時系列的には変化しているのですが、人間の一生では同じことが何度も繰り返されていることを印象づける狙いがあるのでしょう。作品の中には、(同窓会に呼んだ恩師のエピソードなど)いろんな話が散りばめられているのですが、この構造の中にあるゆえに、統一感を感じることになるのだと思います。場所は違えども、同じ遠近法の構図になっているのも、同じ効果を狙っていると考えられます。

以前はまったく気づかなかったのですが、作品の中で、けっこう家電の話があります。新しく買った掃除機とか、佐田啓二が父親にお金を借りて冷蔵庫を買う話とか、当時はそういう時代だったんですね。佐田啓二のアパートにも、笠智衆の家にもテレビがないのも面白いです。『お早よう』(1959年)では最後にナショナルの真空管テレビが家に届きますが、この作品はその3年後なのに、どこの家にも(中村伸郎の豪邸にも)テレビがないのです。

家電だけではなく、クルマのも目が行きました。おそらく、中村伸郎が乗っているのはトヨタのクラウンだと思います。

いつも小津作品ではビールが出てきますが、今回はサッポロですね。星のマークが何度も出てきます。バーで飲むウイスキーはトリスですね。『お早よう』で出てくるビールはアサヒだったかな? 忘れましたが。同窓会で恩師で漢文の先生(愛称ひょうたん)(東野英治郎)にお土産で渡すのは、瓶の形からサントリーのオールドだと思います。

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