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因果関係? バイトテロと東大生 [雑感・日記・趣味・カルチャー]

東大生の幼児期"テレビは観ず、すぐ寝る"(プレジデントオンライン) - Yahoo!ニュース

米飲食店でも「信じられない」悪ふざけが。バイトテロはなぜ起こるのか (安部かすみ) - 個人 - Yahoo!ニュース

いずれの記事も2つのものに関連性があると書かれています。その関連性は、因果関係なのか、それとも相関関係なのかと判断する習慣が読者にはあるのでしょうか。

前者の記事の内容は、東京大学の学生は幼少期にテレビをほとんど見ることなく、遊び道具はもっぱら積み木で、寝る前には親に大量に読み聞かせをしてもらい、また早寝の習慣があったと書かれています。

後者には、「バイトテロリスト」(バイト先で悪ふざけをして、勤め先に多大な迷惑をかけている人)が発生する原因は、「やりがいのなさ」「報いのなさ」にあるのではないかという内容です。

最初の記事を読んだ人の中には、東大生と同じ方法で子育てをすれば、自分の子供も東大に入れられると思うかもしれません。また、書き手もそういう意図でこの記事を書き、読者に自分の教育方法を実践してもらおうとしているようです。書き手は「母学アカデミー学長」とのことです。

しかしながら、東大生と同じような生活習慣を実行すれば、誰でも東大生になれると考えるのは、因果関係を取り違えています。東京大学への入学という結果に導く原因が、彼らの生活習慣のみにあると還元するのはきわめて乱暴な話です。それはオリンピック選手と同じような生活をすれば、誰でもオリンピック選手になるというような、個人の才能や環境を無視した考えと同じです。また、夢を実現するためには、夢が実現されるまで頑張ればいいだけのことで、夢が実現しなかった者は努力をしなかったダメ人間だという烙印を押すくらい傲慢な考え方です。

10年以上前、富裕層は長財布を持っているから、長財布を買えば、君も金持ちになれるという本がベストセラーになり、よく電車の中でその本の広告を見ました。それを見るたびに、この広告に影響を受けて、長財布を買った人はどれくらいいるのかと想像して楽しんだ記憶があります。「アホだなあ」と。もちろん、私は買いませんでした。だからこそ、貧乏で苦しんでいるかもしれません(笑)

仮に、調査の結果、富裕層の多くが長財布を持っているというデータが正しかったとしても、それは原因ではなく、(偶然の)結果です。「金持ち」になるためには、金持ちと同じ生活習慣をすればいいと考え、長財布のみを購入したからといって、そもそも金持ちではないのですから、金持ちと同じ生活習慣を実行することは不可能です。また、富裕層の方たちでさえも長財布を購入したことが原因で金持ちになったわけではありません。もし、貧乏人が必要もないのに長財布を購入したら、金持ちになるどころか、無駄な消費をして、金持ちから遠ざかるだけです。それがわからない人は、因果関係を取り違える、騙されやすい人と認定できます。騙されやすい人というのは、「この壺を買えば、幸福な生活を送れますよ」と言われて、数十万円も支払ってしまう人のことです。幸せな生活を送れるのは、壺を売った側であって、「あなた」ではないのです。上の文で主語を明示していないことにすら気づいていない人は要注意です。

2つ目の記事の書き手は、フリーの編集者兼翻訳家ですから、雇用関係上、自分を守ってくれる企業に属していないので、バイトテロを起こす側の人間に共感しながら、自分たちの置かれている状況について苦言を申し立てるのは当然です。書き手の立場というものを、文章を読む際に、配慮しないと、簡単に騙されてしまいます。

もちろん書き手の立場を考慮に入れることも重要ですが、最初の記事と同じように、因果関係に着目することも重要です。書き手の主張を素直に受け取れば、働いても働いても奴隷のような生活を送らざるを得ない立場の人間は全員がバイトテロをするような印象を与えます。当然、そんなわけはありません。私も奴隷のような身分ですが、バイトテロなんてこれまでもしたことはありませんし、今後もするつもりもありません。奴隷がみな反乱を起こすとは限らないのですから、そういう決めつけはいけません。

この書き手はバイトテロを引き起こす原因をひとつに絞り込もうとしていますが、実際のところ、原因はさまざまです。バイトテロリストは、一般に理解されているように、動画をYouTubeに上げれば、バズって、広告費を稼げると思ったかもしれません。あるいは友人に乗せられたのかもしれませんし、職場の上司や恋人に恨みがあったのかもしれません。いろんなことが複合的に絡み合って、バイトテロリストは事件を起こしたのでしょう。真相は薮の中です。

いずれにせよ、2つの事象に何らかの関係があることは確かですが、それが因果関係であるかどうかは定かではありません。あってもせいぜい相関関係でしょう。人間の世界は、どんなことでも同じことが言えますが、そんなにすっきり簡単に片付くものではないのです。調べれば調べるほど、考えれば考えるほど、混沌としてきて、わからなくなっていくものです。